僧院は沈黙の中にあった。
つねならば詠唱に満たされているべきその聖堂に、人影は一つきりである。
神よ、と彼は食いしばった歯のあいだから囁いた。世界を奏でる神よ、奏楽僧に因果調律のわざを賜いし聖なるかたよ、どうかお聞き届けください。
お許しください。
……いいえ、許しなどなくても、わたしは参ります、神よ。
冷たい大理石の床に、男は両膝をついていた。その膝の上に握りしめた手の一方に、なめらかな木製の柄と、その柄を中心にのびる五本の棒で支えられた金属の環、そしてその環に結びつけられた五つの鈴――五鈴と呼ばれる楽器を握っていた。
抑えた声で、男は語る――すべての運命の転変をつかさどるという竪琴、そして未来を告げる横笛は、神殿から奪い去られました。僧たちは、殺されました。
助けてもくださらないあなたを、わたしはもうたよらない。信じない。それでも参ります、宝器を取り戻すために。
それはあなたのためではない、神よ、わたしは宝器を守ろうとして命を落とした同輩たちのために参るのです。それは復讐であり、贖罪でもあるでしょう。どちらにせよ、あなたにはもうなんの関係もないこと。
ただひとつ、この過去を呼び覚ます五鈴をわたしが持っていることのみ、神よ、お許しください。
そしてやはり、許しなどなくても、わたしはこれも手にするでしょう。たずさえて、ここを出て行くでしょう。
神よ、それでもどうか、お許しください。許しを待たぬわたしを、許される暇もなく死んでいった同輩たちを、そして、やがてはわたしに追いつかれて殺すか殺されるかするであろうあの暴漢たちを、世界のすべてをお許しください。
そうして男は立ち上がり、ほどなく、僧院の中に生命の気配はなくなった。
pomera DM100→Macmini への Bluetooth ファイル転送テスト用に pomera で書いてみたテキスト。